
自然農をしていると、「もっと別の育て方を試してみたい」「この方法とどちらが生育が良いのだろう」と、次から次へと試してみたい実験テーマが浮かんできます。しかし、家庭菜園や自然農での栽培チャンスは基本的に年に1回きりです。限られたチャンスの中で納得のいく検証をするためには、元気な苗を自分でたくさん育てて準備しておくことが欠かせません。
ただ、いざ苗作りを始めてみると、「苗半作」という言葉の通り、水切れや虫の食害、高温多湿、風雨など、様々なトラブルに直面することになりました。そこで今回は、私が試行錯誤しながら自宅の敷地に自作した「小型育苗ハウス」の工夫や、失敗を防ぐための日々の水やり・温度管理のコツについて、大まかな全体像と実際の工夫を交えながらご紹介したいと思います。これから自然農で育苗に挑戦してみたい方や、育苗環境を工夫してみたいと考えている方の参考になれば嬉しいです。
自然農で苗作りにこだわる理由と私の実験スタイル
自然農を続けていると、好奇心が刺激されて試してみたいことが本当にたくさん出てきます。例えば、土作りの段階でバーク堆肥をしっかりすき込むべきか、それとも表層に軽くかき混ぜる程度が良いのか。トマトを定植する時は茎を寝かせて植える寝かせ植えが良いのか、まっすぐ垂直に植えるのが適しているのか。育苗ポットのサイズも7cmが良いのか、10cmまで大きく育てるべきかなど、比較してみたいテーマは尽きません。
こうした実験は年に1回しかチャンスがないため、同じタイミングで複数のパターンを同時に試す必要があります。そのためには、どうしても一度にまとまった数の苗が必要になります。市販の苗を購入して実験することも可能ですが、購入苗は苗ごとの状態にバラつきがあることも多く、純粋な比較が難しくなることがあります。また、数多くの実験をするために苗をたくさん買い揃えると、コストもそれなりにかかってしまいます。
その点、自分で種から育苗すれば、同じ条件で育った揃いの良い苗を必要な分だけ確保できます。特に自然農では、前年に元気よく育った株から自家採種した種を使えるのが大きな魅力です。種取り用の株は1〜2株もあれば使い切れないほどの種が採れるため、苗作りのランニングコストはほとんどかかりません。たくさん採れた自家採種の種から形の良いものを厳選し、少し多めに種まきをしておくことで、実験途中で一部がダメになってもリカバリーが効くようにしています。
「苗半作」の難しさと直面したトラブル
農業の世界には「苗半作(なえはんさく)」という言葉があります。苗作りの成否が、その後の収穫や生育の半分を決めてしまうという意味ですが、実際に自分でやってみると本当にその通りだと痛感します。苗作りは想像以上にデリケートで、油断するとあっという間に失敗してしまいます。
発芽したばかりの小さな芽はとても脆弱です。少しの環境変化や水切れ、日照不足、急激な温度変化ですぐにダメになってしまいます。屋外の地面に直接セルトレイやポットを並べていた初期の頃は、一晩でナメクジに新芽を食べ尽くされたり、バッタや蛾の幼虫に葉をかじられたりといった食害に悩まされました。また、急な激しい風雨に叩かれて茎が折れてしまうこともありました。
特に神経を使うのが「水切れ」と「高温多湿」のコントロールです。育苗トレイの小さなセルは土の量が少ないため、晴れた日にはあっという間に土が乾いてカラカラになってしまいます。かといって、風通しの悪い場所で過湿状態が続くと、根腐れや病気の原因になってしまいます。何か一つ対策を打つと別の問題が生じるというジレンマがあり、環境のバランスをいかに保つかが最大の課題でした。
試行錯誤してたどり着いた自作育苗ハウスの工夫
こうしたトラブルを防ぎ、安定して元気な苗を育てるために、私は自宅の庭に専用の「小型育苗ハウス」を自作して運用しています。毎日細やかに観察して手入れができるよう、畑ではなく自宅の敷地内に設置するのがポイントです。
害虫と風雨への対策として、まず頑丈な農業用パイプを組み合わせて「高床式」の構造にしました。地面から高い位置にトレイを置くことで、地面を這ってくるナメクジの侵入をほぼ完全にシャットアウトできています。さらに、ハウス全体を厚手のビニールシートで囲うことで、強風や激しい雨粒からデリケートな幼苗を守っています。
ただし、ビニールで完全に密閉してしまうと、晴天時に内部の温度が急上昇して苗が蒸れて枯れてしまう危険があります。そこで、ハウスの背面はあえて開放して自宅の外壁にぴったり寄せて配置し、上部側面も換気口として開放構造にしました。この開放部には防虫ネットを「のれん」のように垂らして掛けています。こうすることで、しっかりとした通気性を保ちながら、バッタや蛾などの飛来害虫が内部へ侵入するのを防いでいます。
また、夏場の強烈な直射日光による温度上昇を和らげるため、ハウスの上部には着脱可能な遮光ネットを洗濯ばさみやパッカーで簡単に掛けられるように工夫しています。遮光ネットを掛けると苗が日光を求めてやや間延び(徒長)しやすくなるというデメリットもありますが、真夏の極端な高温で苗が全滅してしまうリスクを避けることを最優先に考え、日差しの強さに応じて柔軟に着脱して調整しています。
育苗ハウスの組み立てと設置
ここからは、私が使っている育苗ハウスの具体的な組み立てと設置についてご紹介します。この育苗ハウスを製作するのにかかった費用は、約1万円でした。結構安価に製作できましたが、これで何回か訪れた台風にも耐えてくれました。
・農業用パイプ(φ22)、角材、波板を設計した部品サイズに加工します。
・ユニバーサルジョイントを使って、パイプを門型に組みます。(A~C)
・同様にパイプを枠に組みます。(トレイを嵌める枠Dと上部の枠E)
・門型A、Bは、フックバンドで枠D、Eに固定し、門型Cはユニバーサルジョイントで枠Eに固定します。
・筋交い用のパイプをユニバーサルジョイントで門型A、Bと枠Eに固定し、育苗ハウスの強度を上げます。

・角材を門型A~Cに結束バンドで固定します。
・波板を専用の波板固定ビスで角材に固定します。
・育苗ハウスの側面を厚手のビニールで囲い、パッカーで固定します。背面は開放します。
・防虫ネットを上部の開口部を覆うように被せます。ネットの端は、絞って結び目にしておきます。風で前面の防虫ネットがめくれないように、おもり代わりの洗濯ばさみを付けておくと便利です。
・家の壁を背にして、日当たりの良い場所に設置します。足は土に30cmほど埋め込んで、風で飛ばされることを防ぎます。

日々の水やり管理と根を傷めないための工夫
育苗において最も重要な毎日の水やりについても、いくつか試行錯誤を重ねて現在のやり方に落ち着きました。
小さなセルトレイは保水力が低く水切れを起こしやすいため、私は育苗トレイの下に「種まき培土」を薄く敷く工夫をしています。下層に土があることで適度な水分が保たれ、急激な乾燥を防ぐことができます。この方法のデメリットとしては、苗の根がトレイの底穴を通り抜けて下の土まで伸びてしまい、後でポットへ鉢上げする際に根を少し傷めてしまうリスクがある点です。それでも、水切れで完全に枯らしてしまう致命的な失敗に比べれば十分に許容できるため、安全策として採用しています。
水やりの道具についても、最初は全体に優しく散水できる霧状スプリンクラーを試してみました。しかし、トレイの底までしっかり水を行き渡らせるには5分以上かけ続ける必要があり、場所によって水のかかり方にムラができることが分かりました。そこで現在は、細口の水差しを使った手作業での水やりに切り替えています。
ただ、ジョウロや水差しから勢いよく水を注ぐと、水圧でセルの柔らかい土を掘り返してしまいます。そこで、水差しの先端に「内径5.5mmの細いホース」を短く取り付けて使っています。こうすると水の勢いがほどよく和らぎ、小さなセルひとつひとつの土を崩さず、優しくたっぷりと水を含ませることができます。苗が大きくなって7cmや10cmポットに鉢上げした後は、苗もしっかりしているので通常の太口の水差しで直接水を与えています。
水やりは毎朝の観察を兼ねて行うのが基本ですが、雨の日でも油断は禁物です。朝は湿っていても、日中に急に晴れて気温が上がると一気に水切れすることがあるため、お昼休みなどにもこまめに様子をチェックするようにしています。
自分に合った育苗環境を見つける楽しみ
苗作りは確かに手間がかかり、日々の細やかな気配りが必要な作業です。設置場所の日当たりや風通し、住んでいる地域の気候によって最適な環境は少しずつ異なりますし、どんな資材ややり方にも一長一短があります。
私の作った育苗ハウスや管理方法も決して完璧な正解というわけではありませんが、失敗を繰り返しながら少しずつ改良を重ねてきた現在の形は、我が家の栽培スタイルにはとても合っていると感じています。種から育てた元気な苗が畑で力強く育ち、豊かな実りをつけてくれた時の喜びはひとしおです。これから自然農で苗作りに挑戦される方や、育苗環境の改善を考えている方のひとつのヒントになれば嬉しいです。


